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『雷神シド』 |
獅子戦争勃発から3ヵ月。戦線の拡大とともに戦闘は日増しに激化し、戦局を決定づけられぬまま、ラーグ・ゴルターナ両軍とも次第に疲弊を重ねつつあった。
飢えと重税にあえぐ民衆を憂う南天騎士団の将“雷神シド”ことオルランドゥ伯は、ゴルターナ公に和平工作を進言するが…。
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ベスラ要塞
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ボルミナ男爵
「死亡者は昨日までに約2万、 両軍を合わせると倍の約4万…。
「負傷者はわが軍だけでも 軽く20万は超えます。 |
エルムドア侯爵
「問題は死傷者だけではない。
「兵糧の蓄えもあとわずかに なってきたが、これは計画どおり。 厄介なのは今期の干ばつだ。
「兵糧を買い付けようにも、モノがない 有り様で、税収の大幅減とあわせて 通年の半分以下しか備蓄できん。 |
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ブランシュ子爵
「それについてはラーグ公も 同じであろう。
「あちらはこの収穫時期に長雨が 続いたおかげで、刈り取る前に 穂が腐ってしまったそうだ。 |
オルランドゥ伯
「むしろ問題なのは、この戦乱によって 職や住む処を奪われた民だろう。
「オーランの調べによると 王都ルザリアにはすでに10万人を 超える難民が流入しているとか。 |
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ブランシュ子爵
「ハハハッ、それはよい。ラーグ公側も 食料の買い付けに苦労するだろうよ。 |
オルランドゥ伯
「笑いごとではないぞ! 戦線が拡大すれば我々とて同じ。
「大量の難民がいつこちら側に 流れ込んできてもおかしくないのだ!
「…やはり、そろそろ、 和平工作を始めるべきでは ないだろうか…? |
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ゴルターナ公
「貴公らの心配はもっともだ。だが、 この戦いをやめるわけにはいかぬ。
「通年より3割ほど増税しよう。 また、穀物などを高値で売買する輩が 出ぬよう監視を厳しくするのだ。
「また、難民についても同様だ。 ランベリーの境界を越えぬよう 監視をより一層厳しくしようぞ。 |
オルランドゥ伯
「苦しいのはラーグ公も一緒。 今なら和平的解決もできましょう。 |
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ゴルターナ公
「くどいぞ、オルランドゥ。 和平的解決などありえん話だ。 |
オルランドゥ伯
「民あっての国家! 民あっての我々なのです。
「五十年戦争でもっとも苦しんだのは 民百姓ではございませんか! これ以上の増税はいかがでしょう。
「民だけではございません。 前線で戦っている兵たちは 満足な食事にありつけない有り様。
「これ以上、戦いを維持し続けるのは 物理的にも精神的にも不可能です。 |
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ゴルターナ公
「精神的にだと? 貴公とも あろう者が臆病風に吹かれたか? |
オルランドゥ伯
「五十年戦争では鴎国の侵略から祖国を 守るという大義がございました! |
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ゴルターナ公
「この戦いにはそれがないと申すかッ?
「いつから貴公はそのような“偽善”を 口にするようになったのだ?
「甘くすればつけあがるのが奴らだ。 我々が戦っているのは 民のためでもある!
「これ以上、腐った王家の行いによって 民に迷惑をかけぬためにもこの戦いを やめるわけにはいかんのだ! |
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ブランシュ子爵
「閣下のおっしゃるとおりですぞ。 あとわずかではございませんか!
「“雷神シド”とまで称えられた オルランドゥ伯のおっしゃることとは 思えませんな、まったく。 |
オルランドゥ伯
「あとわずかだと? 何を見てそう申すのだ?
「この状況のどこを見てそのように 楽観的になれるのだ? 貴公の目は節穴ではないのか! |
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ブランシュ子爵
「そ、それは暴言でございましょう!! |
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ゴルターナ公
「もう、よい、やめよ!
「見損なったぞ、オルランドゥ。 これ以上の暴言は 貴公の身を危うくするぞ! |
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オルランドゥ伯
「…………。 |
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ゴルターナ公
「よいか、二度とは言わぬ。
「これ以上、わしの方針に 不服があるならば早々にここを 立ち去るがいい!
「よいな、オルランドゥ!! |
偽らざる者
CHAPTER 3 THE VALIANT
ディリータは僕に言った。
“大きな流れがあり、
それに逆らっている”と…。
この戦乱の世が避けようのない
運命のような
“大きな流れ”だとしたら、
僕はその流れに
逆らうことができるのだろうか?
僕は兄ザルバッグに
戦乱を影で操る者がいることを
告げるため
王都ルザリアを目指していた…。
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