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 財宝『ゲルモニーク聖典』

 聖アジョラの弟子・ゲルモニークが記した聖アジョラの活動記録ともいうべき書物。 幻の書物といわれていた。



…僕はシモン先生から委ねられた
『ゲルモニーク聖典』を手にとり
ページをめくった…。
文章は古代神聖語で書かれている。
ところどころに挿し絵があるが、
中身の破損が激しく文字の判別も難しい。
いったいこの本には
何が書かれているのだろうか?

そのとき、慣れ親しんだ畏国語の文字が
僕の目に飛び込んできた。
ところどころに、畏国語による注釈が
書き加えられていたのだ。
いったい誰が?

注釈に使われたインクからすると、
古いものは十数年前、
新しいものは数日前に書かれたようだ。
指で触ってみると、少しにじむ。
やはり、インクが完全に乾いてはいない。
文字の筆跡は同一人物。
つまり、シモン先生が十数年の歳月をかけて
少しずつ、少しずつ解読していたのだ。

…断片的な注釈を頼りに読み進めてみた。

…どうやらこの本は聖アジョラの弟子、
ゲルモニークが書き記したものらしい…。
ゲルモニーク…?
どこかで聞いたことがある…。
歴史の授業で習ったはずだ…。

そうだ、思い出した。
ゲルモニークといえば、
師である聖アジョラを裏切り、
神聖ユードラ帝国に聖アジョラを売り渡した
裏切りの使徒…。
そのゲルモニークの書き記した書物が
この世に残っていたなんて、
これはすごい!

…興奮する自分を抑えながら頁をめくる。
しかし、歴史的遺産を手にした興奮を
はるかに上回るような衝撃が僕を襲った。

この本は、聖アジョラの語った言葉を
ゲルモニークがまとめただけのものと
僕は考えていた。
しかし、その考えは甘かった。
これは聖アジョラの活動の記録…、
しかも、僕らが知っている聖アジョラとは違う
一人の人間としてのアジョラの行動が
記されていたのだ…。

そのそも聖アジョラは人間ではない。
僕は兄・ザルバッグほど敬虔(けいけん)な
グレバドス教信者ではないが、
聖アジョラは、混乱した人間界を救おうと
神の国より遣わされた“神の御子”であると
信じている。
いや、信じていた…。
そう…、この本を読むまでは…。

…かつて、何艘もの飛空挺が大空を飛び、
天を埋め尽くしていた黄金の時代…。

ルザリアのベルベニアに生まれた聖アジョラは
生まれるとすぐに立ち上がり
井戸まで歩くと、
「この井戸にはもうすぐ災いがふりかかる。
 今のうちに封印し、
 人が飲まぬようにしなければならない。」
と予言したという…。

数日後、ベルベニアを黒死病が襲い、
汚染された井戸水を飲んだ人間は
次々に病に倒れて死んだ…。
しかし、聖アジョラの言葉を信じた家族だけは
病にかからずに生き延びることができた。
以後、聖アジョラは
“奇跡の子”“神の御子”と
崇められることになった。

そんなアジョラが“救世主”となり、
“神の一員”として天に召されることに
なったのは、二十歳のときだ…。

イヴァリースが
現在のように統一される遥か昔、
この地はゼルテニア、フォボハム、ライオネル
ランベリー、ルザリア、ガリオンヌ、
ミュロンドの7つの小国に分かれており、
それぞれ自国の版図を広げようと
いつ終わるともしれない争いを続けていた…。

数百年続いた争いの中、ミュロンドに
一人の野心溢れる若き王が誕生した。
若き王はイヴァリース全土を手中に収めるべく
大群を率いて戦ったが、
勝利への道は険しく厳しかった。
そこで、王は古文書より解読した秘法を用いて
魔界より魔神を召喚し、
その力を利用しようとした。
しかし、地上に降臨した魔神は王を殺すと
世界を滅ぼそうとした…。

勇者は魔神に対抗すべく、
十二人の使徒とともに世界に散らばった
“ゾディアックストーン”を集め、
ゾディアックブレイブを復活させた。
彼らはまたたくまに悪魔たちを倒すと
ついに魔神を魔界へ戻すことに成功した。
こうして彼らは
“世界の救世主”となった。

ここまでが有名な
ゾディアックブレイブの伝説だ。
ゾディアックブレイブたちはその後も
世界に危機が訪れるとそれに対抗すべく
忽然と姿を現し、忽然と消えていった。

聖アジョラの生きていた時代にも
似たような危機が訪れた。
イヴァリースの派遣を狙うランベリーの王が
魔神を召喚し世界を混乱に招いた。
聖アジョラは伝説と同様に十二個の聖石を
集めるとゾディアックブレイブを結成し、
魔神を倒したのである。

しかし、いつの世も執政者にとって
“英雄”ほど邪魔な存在はいない…。

神の国の到来を説く聖アジョラの台頭を恐れた
神聖ユードラ帝国は
その一派を捕らえるために挙兵した。
当時、もっとも大きな宗教であった
ファラ教の司祭たちは聖アジョラの力を
恐れたのだ。
結局、金に目のくらんだ
十三番目の使徒・ゲルモニークの密告によって
聖アジョラは捕らえられ、
ゴルゴラルダ処刑場で処刑された。

しかし、聖アジョラは“神の御子”…、
神の怒りがファラ教の司祭たちを襲った。
処刑の直後、ファラ教の本拠地ミュロンドは
天変地異により海中に没したのである。

…こうして、聖アジョラは
“神の御子”として天界に迎えられ、
“神の一員”になったのである…。

ここまでが僕の知っている…
いや、畏国に住む者ならば誰もが知っている
聖アジョラの“神話”だ。
だが、この『ゲルモニーク聖典』に
書かれている聖アジョラは
まったくの別人であった……。

アジョラは“神の御子”などではない。
僕たちと同じただの人間だ。
野望を抱き、おのが夢の実現のために
戦った革命家なのである。
しかも、彼は平和を愛し、他人のために
命を賭して戦うような勇者ではなかった。

…ゲルモニークの記したところによると
こうである。

新興宗教の教祖として信者を増やしていた
アジョラは、当然のように、帝国にとっては
ただの厄介者でしかなかった。
しかし、アジョラはそうした宗教家としての
“顔”だけではなかったようだ。
敵国に潜入し情報収集と撹乱を行う工作員。
帝国と敵対する国家の
間者(スパイ)だったのだ。

とにかく、帝国はアジョラを恐れた。
帝国はアジョラが間者である証拠を掴むために
ゲルモニークを送り込んだ。
そう…、ゲルモニークもまた、
アジョラの動向を探るために帝国から
送り込まれた工作員だったのだ。

…アジョラがゾディアックブレイブを
再結成しようとしていたのは事実らしい。
実際に聖石を数個、発見したことを
ゲルモニークは確認している。
だが、再結成に何の意味があるのか?

若きランベリー王が本当に魔神を
召喚したのかどうか、
僕にはわからない…。
少なくともこの本にはそうした記録が
1行たりとも記述されていないらしい。
ただし、アジョラの死とほぼ同時期に
ミュロンドを天変地異が襲い、
ミュロンドの大半が海中に没したのは
事実であった…。

ここで、僕は注釈とは別の、
おそらくシモン先生の個人的な考えであろう
記述に興味を引かれた…。

“これまで、
 その存在が語られていたにも拘わらず、
 誰の目にも触れることのなかった
 幻の書『ゲルモニーク聖典』…。
 この本が真実を語っているのか、
 それとも聖アジョラの偉業を貶めるために
 捏造されたのか、
 その真偽を私は知っている…。”

“私がかつて異端審問官として
 教会の仕事に従事していた際、
 多くの異端審問官たちは
 この本が世に出ることを恐れていた。
 それは教皇も同じ思いであっただろう。
 なぜならば、この本が語っていることは
 すべて『真実』だからである…。”

“逆にいえば、聖アジョラの死後、
 彼の偉業を利用し権力を手にしてきた教会が
 なさねばらなぬことはただ一つ、
 聖アジョラを神格化し、
 神と一体化させることであった。
 それには都合の悪い点を
 歴史に残してはならない。
 聖アジョラは『神の御子』でなければ
 ならないのだ…。”

“そのために、畏国で幅広く信仰されている
 ゾディアックブレイブの伝説を
 利用したのは賢い手段であった。
 ありもしない魔神を倒したのは
 聖アジョラ率いるゾディアックブレイブだと
 民衆に信じ込ませることは簡単だ…。”

“私がこの本を手にしたとき、
 私は信仰を失ったことに気付いた。
 だが、悲しくはない…。
 何故なら、真実を追究しようとする好奇心が
 すでに私の心を支配していたからだ…。”

“だが、同時に私は罪も犯した。
 教会が民衆に対して嘘を付いているにも
 拘わらず、
 それを糾弾する気が起きないからだ。
 それは何故か?
 もし、私がこの本を世に出したら、
 私はこの書庫を
 取り上げられてしまうだろう…。”

“私にとって、
 私の知識欲を満足させるこの書庫を
 取り上げられることほどの苦痛はない。
 私は、私の好奇心に負けたのである…。”

シモン先生は
“ありもしない魔神”と語った…。
だが、聖石の邪悪な力を目の当たりにした僕は
教皇の企みとは別の、
邪悪な何者かの思惑を感じていた…。