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 『オヴェリアの不安』
 ライオネル城への道中、束の間の休息を求める一行。王女の身を気遣うアグリアスにオヴェリアは自らの生い立ちを語るとともに、自分を政略に利用する権力者たちへの不信を口にする。
 拭いきれぬ不安を抱く王女に、かけるべき言葉すら見つけられず、ただ思い出の草笛を鳴らしてみせるラムザだった…。


騎士アグリアス
「オヴェリア様、ごらんになれますか?
 あの山の向こうがライオネル城です。
王女オヴェリア
「この城塞からは、まだ遠いのね…。
「ドラクロワ枢機卿は本当に私たちを
 助けてくれるのかしら…?
騎士アグリアス
「枢機卿殿は王家に対する忠誠心が
 とても高いお方と聞いております。
「それに、今のところ
 ラーグ公とゴルターナ公の政争に対し
 中立の立場をとっておいでだとか。
「オヴェリア様をどちらかに
 引き渡すような不義は
 なさらないでしょう。
王女オヴェリア
「そうだとよいのだけれど……。

騎士アグリアス
「それに枢機卿殿は
 グレバドス教会の信望も厚く、
「枢機卿殿の願いなら
 教会側もオヴェリア様を
 受け入れてくれましょう。

王女オヴェリア
「…王女になど、
 生まれてこなければよかった。

騎士アグリアス
「オヴェリア様…。

王女オヴェリア
「私は修道院の壁しか知らない…。
 塀で囲まれた空しか外を知らない。
「アグリアスは知らないと思うけど、
 私は、オーボンヌ修道院へ行く前は
 他の修道院にいたの。
「亡き国王の養女に迎えられたと
 聞いたときも、その後も、
 ずっと修道院で暮らしていたのよ。
「ううん、それがイヤだって
 言っているんじゃないわ。
 ただ…。
「ただ、私が王女であるばかりに
 私のために死んでゆく人たちがいる。
 それがとてもつらいの…。
騎士アグリアス
「オヴェリア様がご自分を責めることは
 ございません。
「オヴェリア様のせいではなく
 オヴェリア様を利用しようとしている
 奴らが悪いのです。

王女オヴェリア
「オーボンヌ修道院で
 知り合ったコがいるの。
「彼女も生まれてからずっと
 修道院で暮らしているって
 言ってたわ。
「同じような境遇だねって
 二人でよく笑ってたの。
 ふふふ、おかしいでしょ。
騎士アグリアス
「ベオルブ家の令嬢のアルマ様ですね。
王女オヴェリア
「私のたったひとりの友だち…。
「…ドラクロワ枢機卿は
 私を利用したりしないかしら?
騎士アグリアス
「…………。

ムスタディオの声
「ラムザッ!
 どこだ? そろそろ出発するぞ!

機工士ムスタディオ
「こんなところで何やってんだ?

騎士アグリアス
「どうだったか?
機工士ムスタディオ
「大丈夫。今のところ北天騎士団が
 この街に来た様子はない。

王女オヴェリア
「以前、友だちが教えてくれたんだけど
 なかなか上手くいかないわ。

剣士ラムザ
「こうするんですよ。

王女オヴェリア
「こう?

王女オヴェリア
「あ、鳴ったわ。